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名古屋高等裁判所 昭和51年(行コ)12号 判決

控訴人(一審被告)付知営林署長

小谷清次

外一名

被控訴人(一審原告)

鎌田俊寛

外一二三名

(以上の詳細は、別紙当事者目録記載のとおり。)

主文

原判決を取り消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、主文同旨の判決を求め、被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

原判決の事(「事実摘示欄」の意と認められる。)一四頁五行目から六行目にかけて「もたらされ障害」とあるを「もたらされる障害」と、同一六頁五行目に「常勤作業員」とあるを「常用作業員」と、同七八頁六行目に「宜言文の」とあるを「宣言文を」と、同八四頁三行目に「全国土の」とあるを「全国土に」とそれぞれ訂正する。

(被控訴人らの主張)

一  公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)一七条一項は憲法二八条に違反する無効のものであるから、本件懲戒処分もまた憲法二八条に違反する。

1  憲法二八条は、同法二五条の生存権の保障を基本理念とし、そのための手段として勤労者に対し団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)を保障するものであり、この労働三権は相互に不可分一体の関係に立っている。従って、かかる根源的な権利である労働基本権、なかんずく争議権を制約することができるのは、その争議権の行使による業務の停廃が、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある場合にのみ、これを避けるため、必要最少限度の範囲で許されるにすぎず、その場合であっても、これに見合う十分な代償措置が講ぜられなければならないものである。

しかして、官公労働者(国家公務員法、地方公務員法、公労法、地方公営企業労働関係法の適用を受ける職員を総称する。)も憲法二八条の勤労者にほかならないから、その労働基本権を制約するには右の理によるべきであるに拘らず、公労法一七条一項は、国有林野事業のように争議行為によって国民生活に重大な障害をもたらすおそれがないものについても、その争議行為を一律・全面に禁止するものであるから、憲法二八条に違反する無効のものである。

2  最高裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(刑集三一巻三号一八二頁。以下「五・四判決」という。)は、三公社・五現業(現在は四現業。以下同じ。)の職員の憲法上の地位の特殊性、社会的経済的関係における同職員の地位の特殊性、職務の公共性並びに代償措置をもって、公労法一七条一項は憲法二八条に違反しないと論ずるが、是認できない。

先ず、憲法上の地位の特殊性として論ぜられている勤務条件法定主義・財政民主主義は、三公社・五現業の職員の団体交渉権・争議権を制約する根拠とはなりえない。即ち、右職員は憲法七三条四号の官吏には該当せず、賃金その他の勤務条件に関する基準の設定については憲法二七条二項の適用を受けるものである。仮にそうでないとしても、憲法七三条四号は公務員の勤務条件等の基準の設定を立法事項としたものにすぎないのであって、「公務員の勤務条件はすべて法律で決定しなければならず、内閣は国会からの授権若しくは委任がなければその決定をなしえない。」という憲法上の要請もないから、法律では大綱的基準の設定にとどめ、その大綱の内容及び具体化は団体交渉や協定に委ねる趣旨であると解すべきである。そして、右協定に基づく国費の支出については、憲法八三条、八五条に定める財政民主主義の原則による制約上、協定の内容の如何によっては、既存の法律や予算との牴触を生ずることを回避するため、協定中に、その効力の発生又は不発生を国会の承認(法律の改廃・予算の議決)にかからしめる定めを設け、或いは公労法一六条と同様の立法措置を講じておけば、国会の権能に触れることはない。このことは、公務員が勤務条件につき内閣と法律の改正をめぐって団体交渉をして協定を締結する場合にも、同様に言えることである。

次に、その労使関係には市場からの抑制力が働かないという社会的・経済的関係における地位の特殊性は、官公労働者の争議行為が国民の世論の動向を無視しえないことを見逃した議論であり、また、職務の公共性についても、公共企業体等に限らず、公共事業関係のすべての企業は多少を問わずこれを有するから、右の点で争議権を禁止すべき根拠となりえないことは明らかである。

更に、代償措置についても、公労法の定める仲裁等の制度は、賃金問題についての運用の実態や、賃金関係以外の事柄については全くその機能を果たしていない実情に照らすと、争議権剥奪の代償措置としては甚だ不十分なものである。

3  なお、ILO条約一五一号七条は、「関係のある公の機関と公的被用者団体との間の雇用条件の交渉のための手続、又は雇用条件の決定への公的被用者の代表者の参加を可能にするその他の方法の十分な発達及び利用を奨励しかつ促進するため、必要がある場合には、国内事情に適する措置をとるものとする。」と定め、また八条は、「雇用条件の決定に関連して生ずる紛争は、当事者間の交渉を通じて、又はあっ旋、調停及び仲裁等の関係当事者の信頼を確保するような方法で設定された独立のかつ公平な手続を通じて、国内事情に適する方法で解決が図られるものとする。」と定めている。これは、公の機関が雇用するすべての者(公的被用者)に適用されるこの条約が、その労働条件を、原則として労使による合意によって決すべきものとしていることを示すものであるから、財政民主主義の原則がある以上、労働協約締結権を含む団体交渉権ないし争議権は否定されるほかないかのようにいう五・四判決の見解は、右条約の容れるところではなく、公労法一七条一項は右条約にも違背するものである。

二  国有林野事業の職員の争議行為に公労法一七条一項を適用することは、憲法二八条に違反する。

1  国有林野事業に従事する職員のうち定員外職員は、定員内職員、ましてや非現業の国家公務員と、その法律上の地位及び勤務条件において著しい差異がある。

(一) 被控訴人らは常用作業員であるが、これは定員外職員として、人事院規則八―一五「非常勤職員等の任用に関する特例」によって任用され、「常勤を要しない職員」とされている。しかし、公労法四〇条一項一号は国家公務員法(以下「国公法」という。)三条二項の適用除外を規定しているので、人事院は公労法の適用を受ける職員の任免について一般的な権限を有しないから、右人事院規則による任免は脱法的な運用というべきである。仮に、右人事院規則が国公法附則一三条に基づくものとしても、定員外職員は造林、伐木などの基幹作業に常時従事している者であり、その勤務の実態は法律上「恒常的に置く必要がある職に充てるべき常勤の職員」である定員内職員となんら遜色がなく、定員外職員の「職務と責任の特殊性」なるものは別段存在しないから、右人事院規則を定員外職員に適用することは、国公法附則一三条に違背するものである。

このように、定員外職員は任用において法律上不安定な地位に置かれているが、その雇用期間についても、常用作業員と定期作業員は各二か月の期間が定められ、それが更新されているにすぎず、臨時作業員は一か月毎の更新である。しかし、定員外職員は前記のとおり実態は常勤の職員であるから、かかる任期を定めた雇用は人事院規則八―一二「職員の任免」一五条の二の規定に違背する。

更に、定員外職員の解雇規定である国有林野事業作業員就業規則(以下「作業員就業規則」という。)一三条一項四号及び二項は、定員内職員の解雇規定である国公法七八条四号とは、本質的に異なっている。

以上のように、定員外職員は国公法の身分保障を受けていないものである。

(二) 国有林野事業においては、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下「給特法」という。)四条所定の給与準則の定めはなく、定員内・外職員の給与・賃金とも労働協約で定められているが、定員外職員の賃金は、日給制で、基幹部分の作業に対しては出来高給制であり、定期昇給・特別昇給の制度はなく、その賃金決定は、昭和三二年林協第一六号「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」締結以前は、全く雇用権者である各営林署長の恣意的な判断に委ねられていた。

そして、定員外職員の賃金については、給特法五条の給与総額制の適用はなく、国有林野事業特別会計歳出予算における国有林野事業費(項)のうちの業務費(目)から支出されている。ところで、国会の議決の拘束力が及ぶのは予算の「項」までであり、林野庁長官は業務費という「目」の予算の範囲内においてこれを自由に支出しうる権限を有しているから、労使間の合意によって定員外職員の賃金を共同決定することができる。これは国会の議決権を侵すものではないし、財政民主主義に表われている議会制民主主義の原則にもなんら反するものではないから、財政民主主義を根拠に団体交渉権・争議権を否認することはできない。

(三) その他、定員外職員は、労働時間、休日・休暇、休職制度、各種手当、共済組合の諸給付、公務員宿舎の入居等の勤務条件全般について、定員内職員(及びこれに準ずる常勤作業員)と比べて著しい差別扱いを受けてきた。

2  国有林野事業職員の争議行為によって、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれはない。

(一) 林業は、材木を伐採し、その跡地に造・育林を行うことを反覆するものであり、それに付帯して林道の開設、苗木の育成、治山等の関連する業務を行うものである。かかる林業の特徴は、木材の再生産期間が長く、植付けから伐採まで四〇年ないし六〇年以上を必要とし、また伐採による収穫の時期も特定しておらず、材木の育成過程は、人手を加えない自然的成育に委ねる度合が高く、その労働集約度は極めて低いところにある。種苗の作業には適期はあるが、概ね二、三か月という幅があるうえに、植付けの適期を逸して半年先もしくは翌年に作業を繰越すことになっても、四〇年以上も先の伐期の成長量に生ずる差異を具体的に測定しうるものではない。従って、林業においては、争議行為による業務の一時的停廃が造・育林に何らかの影響を及ぼすことがあるにしても、それは木材の成育過程の全体から見ると極めて限局された一部分に限られ、数十年先の収穫量に対する影響は問題とならない。

(二) 水源のかん養、国土の保全など森林法二五条一項各号所定の森林の公益的機能に対し、争議行為が及ぼす影響も全くなく、むしろ、右公益的機能は、伐採の規制その他の施業の制限により、森林に対し人為を加えないことによって保持されるものである。そして、災害等による崩壊地、裸地等についての必要な復旧措置も、年を単位とする長期的計画によって実施されているので、争議行為の及ぼす影響はない。しかも、国有林野事業における業務計画等は頻繁に変更されており、天候による作業の中止・変更も多いのが日頃の常態である。

(三) 更に、我が国における木材の大半の需要先は建築用材であるが、その出荷が多少停滞したからといって、国民生活に与える影響は全く取るに足らないものである。そして、木材の供給の確保や価格の安定のために争議行為を禁止する必要のないことは、衣・食のための生活必需物資についてすら、そのような方法が採られていないことに照らしても明らかである。しかも、我が国の用材総供給量において、国有林野事業に従事する労働者の手によって供給される生産量の占める割合は、わずかに四・六パーセント程度にすぎないものである。

3  以上のように、定員外職員の法律上の地位や勤務条件は、定員内職員、ましてや非現業の国家公務員のそれとは著しく異なっているので、公労法一七条一項を定員外職員に適用することにつき、五・四判決のいうように非現業の国家公務員についての論理が妥当するものではないし、また、国有林野事業の争議行為は国民生活に深い影響を及ぼすものではないから、各争議行為に公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に違反する。

三  本件争議行為に対し公労法一七条一項を適用することは、憲法二八条に違反し若しくは公労法一七条一項の解釈適用を誤ったものである。

1  前記の如く、被控訴人らは、実態は常勤の職員と変りはないのに、定員外の非常勤職員とされ、その法律上の身分は不安定であり、勤務条件は定員内職員と比べて著しい差別扱いを受けてきたが、公労法の定める仲裁等の制度は右差別の是正について何ら機能を果たしえなかったので、被控訴人らは、かかる差別撤廃と常勤制確立を掲げて本件争議行為を決行したものであり、その目的において何ら違法視されるべきものではない。

2  また、本件争議行為は、当日の午前中に時間を限り、単に労務を提供しなかっただけで、それ以上に業務運営を積極的に阻害する行動に出たものではない。しかも、当日の作業は、いずれも予定された日時に実施しなければその目的を達成できないものではなく、当日の午後以降に繰越して実施しても、事業の遂行上何ら支障のないものであったことは、被控訴人ら所属の両営林署が昭和四五年に予定していた事業量が、本件争議行為にかかわりなく全体として達成されていることから見ても明らかである。なお、業務計画等は日頃から頻繁に変更されていることも前記のとおりである。従って、当日の予定作業がその時間帯に実施できなかったからといって、それがため、国民生活に何らの影響も与えなかったのは勿論、国有林野事業の運営に実質的な被害を生じたことさえなかった。

3  以上のように、本件争議行為は、法律上の身分が不安定で勤務条件においても差別扱いを受けていた被控訴人らが、その差別是正を掲げて行った短時間の労務不提供であって、国民生活に対し何らの影響も与えていないから、公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当せず、従って、本件争議行為に同条項を適用することは、憲法二八条に違反し若しくは公労法一七条一項の解釈適用を誤ったものである。

四  本件争議行為については、本来公労法で処理されるべく、仮に然らずとしても、本件行為は国公法九六条一項、九八条一項、九九条及び一〇一条一項に違反せず、且つ、同法八二条各号にも該当しないから、本件懲戒処分はその根拠を欠くものである。

また、国有林野事業に従事する職員には労働基準法(以下「労基法」という。)が適用され、人事院規則一二―〇は適用されないところ、本件懲戒処分は労基法九一条前段(減給限度の制限)に違反するものである。

五  本件懲戒処分は、裁量の範囲を逸脱し若しくは懲戒権の濫用にわたるものである。

1  本件争議行為に至る経緯

(一) 全林野は、林野庁長官が定員外職員の雇用安定等について見解を表明したいわゆる二確認と昭和四三年一二月の常勤性付与の回答以降、その具体的実施内容の明示を迫ってきたが、林野庁は、制度上及び予算上の制約があり、関係省庁との協議が進んでいないとして、再三にわたり具体的回答を引き延ばすという不誠意な態度をとり、全林野の再三の要求にも拘らず常用化は進展せず、定期作業員のうち常用作業員となった人数は、昭和四五年秋までに全国で約八〇〇〇名、名古屋営林局管内では約二九〇名にしかすぎず、なお全国で二万名余、名古屋営林局管内では約一三〇〇名余が定期作業員のまま残されていた。

(二) 全林野名古屋地方本部(以下「名古屋地本」という。)の雇用安定と処遇改善についての取組みは、中央交渉の経過に添い、それぞれの時期における決定事項の具体化と進展を図るため、中央指令に応じて各種団体行動を精力的に反覆してきた。しかし、常用化については、名古屋営林局は、主として愛知県下の一部を除いて気候的にも地形的にも通年作業は困難とみなし、二確認後も大きな変化はなかった。

そこで、名古屋地本交渉では、二確認の精神を強調し、作業の組合せ、立木処分・請負事業の直営への切替えなど具体的な施策を迫る交渉によって、わずかであるが、当局が常用化可能とみなす地域いわゆる常用化地域はやや拡大され、昭和四三年度は約八〇名、同四四年度は約一九〇名、同四五年度は約一〇〇名の常用化がなされた。しかし、名古屋営林局の事業の中心である岐阜県飛騨地方を中心とした北部地域では殆ど常用化は進展せず、昭和四五年秋現在で前記の如く約一三〇〇名に及ぶ定期作業員が残され、職場には強い不満と欲求がうっ積していた。雇用安定を至上命令とする組合に対し、当局は「事業量が漸減状態であり、これ以上の雇用量増大は困難。」「能率性、継続性、安定性の保障がない。」などと主張し、常用化を怠ろうとする姿勢が昭和四四年、同四五年と続いたのである。

(三) 営林署段階の交渉も全く同じような状態であり、本件争議行為を行った付知、小坂両分会における常用化も遅々として進まなかった。付知分会の場合、昭和四一年六月の団交で要求して以来、同四四年一〇月二八日の団交でようやく一二名の常用化の回答があったにすぎなかった。小坂分会の場合も、これとほぼ同様であり、二確認以降の常用化数は、昭和四一年度及び四二年度は零、同四三年度は一名、同四四年度は零であった。

このような中で、小坂分会は、昭和四四年一〇月三〇日の団交で「定期作業員一四四名を直ちに常用化せよ」との要求書を提出したが、当局の回答は、既に民間林業では飛騨地方においても何年も前から冬山事業が行われており、現に小坂においても民間では冬山作業は実施されていたのに、「昭和四五年、同四六年度に冬山実験を行い、その結果がよければ昭和四七年度に常用化を考えたい。」という不誠意なものであった。しかし、小坂分会は「昭和四四年度に冬山実験を行い、昭和四五年度から常用化を図れ。」と強く要求したところ、ようやく、当局は、昭和四五年度から常用化することの検討を約し、昭和四四年一二月四日の団交において、冬山実験を試験的に行うために一四四名の定期作業員のうち一八名の常用化を回答したにすぎなかった。

2  本件争議行為の目的及び性質

昭和四五年七月の全林野第二一回全国大会では、前記のような労使確認無視の林野庁当局の態度に対し、七月末の当局の回答結果の如何によっては、秋から春闘段階にかけて最大限の争議行為で闘い、要求の前進を迫ることを、満場一致で決定した。

こうした方針を見た林野庁は、いわゆる七月提案を公式に行ったものであるが、右提案は二確認の趣旨に添う臨時雇用制度の抜本的改善といいうるものではなく、明らかに新たな差別を持ち込むものであって、常勤制についても昭和四六年度実施という消極的姿勢であり、早期実現の目安がなかったことが大きな問題となった。

そこで、中央、地方、分会交渉で厳しく再検討を求め、局面打開を図ったが、何ら前進がなく、林野庁の不誠意と労使確認無視の態度に怒りが結集し、その結果、常用化と処遇改善の具体的再回答を求めて、やむをえず本件争議行為が行われたものである。

なお、昭和五三年一月一日から発足した基幹作業職員制度は、二確認から一二年有余もかかり、本件争議行為からでも約八年もかかって実現したものであること、しかも定員外職員全員が右制度の適用を受けたのではなく、全国で高令者厚生職の職員及び女子を含む一二四二人(名古屋営林局管内は四〇人)は基幹作業職員から除外され、また未だ全国で九五二〇人(名古屋営林局管内は一九八人)もの職員が定期作業員のまま放置されていること、基幹作業職員の賃金や諸休暇等の勤労条件上の差別は完全には解消されていないこと、以上の各事実からすれば、林野庁が真剣に努力した成果と評価できるものでは決してないといわなければならない。

3  本件争議行為の態様、結果及び影響

本件争議行為が短時間の労務不提供にすぎず、これが国有林野事業の運営に実質的被害を生じさせたことはなく、国民生活に対しても何らの影響も与えなかったことは、前記三の2で述べたとおりである。

4  処分歴

被控訴人らが控訴人ら主張の処分歴を有することは認めるが、本件懲戒処分以前においては、官公労働者の半日程度の争議行為に一般組合員として参加しただけの場合は、懲戒処分を加えるにしても戒告というのが通常であった。勿論、国有林野事業の場合において、争議行為の一般参加者に対して減給処分がなされたことはなかったし、本件懲戒処分後の事例を見ても、概ね争議行為の企画指導者だけを懲戒処分の対象とし、一般参加者は懲戒処分の対象外とされている。これらの事情に照らしても、本件争議行為については、一般参加者でしかない被控訴人らに対し懲戒処分を加えること自体が不当であるのに、ましてや減給というが如き重い処分に付したことは、著しく不均衡であって、裁量権の範囲を逸脱した不当のものというほかはない。

5  以上要するに、本件争議行為はまことに切実且つ緊急の必要性に根ざした正当なものであり、これによる国民生活への影響も皆無に等しいこと、その他本件に表われた諸事情、殊に、労働基本権の発現である争議行為に対しては本来懲戒処分という不利益を課することは許されないこと、本件懲戒処分の根拠法令とされるところには極めて疑問が多いうえに、本件懲戒処分は労基法に牴触するものであり、且つ、例のない極めて苛酷な処分であることなどを総合勘案すれば、本件懲戒処分は明らかに裁量の範囲を逸脱し、若しくは懲戒権の濫用にわたるものというべきである。

六  訴訟手続の受継

一審原告番号42の熊谷久夫は昭和四七年四月一七日死亡し、被控訴人番号42の1の熊谷芳は妻として、同42の2の熊谷いそ子、42の3の熊谷八郎、42の4の早川みち子はいずれも子として、右久夫の地位を承継した。

また、一審原告番号80の成美五郎は昭和五一年五月二〇日死亡し、被控訴人番号80の1の成美きみ子は妻として、同80の2の藤村多恵子、80の3の成美隆道、80の4の成美明子、80の5の成美はるみはいずれも子として、右五郎の地位を承継した。

(控訴人らの主張)

一  公労法一七条一項は憲法二八条に違反するものではないから、本件懲戒処分も憲法に違反しない。

即ち、公労法一七条一項は三公社及び五現業の職員について争議行為の全面一律禁止を規定したものであるが、五・四判決が判示するように、右職員は、勤務条件決定の面から見た憲法上の地位の特殊性(勤務条件法定主義、財政民主主義からの制約)、その労使関係には市場の抑制力が働かない面から見た社会的経済的関係における地位の特殊性を有し、またその職務の公共性や争議行為禁止に対応する代償措置が講ぜられていることなどから、右規定は憲法二八条に違反するものではない。

公労法一七条一項を、被控訴人らの主張するように、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのある争議行為のみを禁止したものであると限定的に解釈することは、その基準が抽象的で不明確であり、著しく法的安定性を害することになるから不合理である。

なお、代償措置については、五現業職員には、非現業の国家公務員と同様に国公法の多くの規定が適用されており、任用については公正且つ平等な取扱いを保障され(国公法三三条以下)、身分を保障され(同法七四条、七五条一項)、懲戒処分に不服がある場合には人事院の審査を受けることができ(同法八九条以下)、給与その他の勤務条件については給特法によることとされている。また、公共企業体等のロックアウトを免れ(公労法一七条二項)、勤務条件決定に当っての紛争については、公労法に仲裁等の制度が設けられている。

二  国有林野事業の職員の争議行為に公労法一七条一項を適用することは、憲法二八条に違反しない。

1  被控訴人らは、国有林野事業に従事する定員外職員は、定員内職員、ましてや非現業の国家公務員と、その法律上の地位及び勤務条件を異にするから、公労法一七条一項を定員外職員に適用することにつき、非現業の国家公務員についての論理が妥当するものではないと主張する。

しかしながら、定員外職員も、原則的には一般職の国家公務員として国公法の適用を受けるものであり、しかも、職務の内容に差異のある国家公務員を法制上どのように位置付けるかは立法政策の問題であるから、定員外職員が定員内職員、ましてや非現業の国家公務員とその職務内容、地位及び処遇等に差異のあることの故をもって、直ちに非現業の国家公務員についての論理が妥当しないとする被控訴人らの主張は誤っている。のみならず、被控訴人らが定員外職員の法律上の地位及び勤務条件について種々主張するところは、以下に述べるとおり理由のないものである。

(一) 任用、解雇について

定員外職員は非常勤職員として、国公法の授権に基づく人事院規則八―一四によって任期を定めて任用されているものであり、解雇条項である作業員就業規則一三条一項四号及び二項は、国公法七八条四号と本質的に差異はない。

(二) 賃金について

定員外職員の基本賃金は日給で定められ、その支払形態は定額日給制と出来高給制が併用されているが、出来高給制は、国有林野事業における現場作業の内容に応じ、その労働の成果に対し公正な賃金を支払う趣旨のものであって、林業における合理的な賃金支払形態というべきであり、その賃金額は民間企業に比較しても決して劣ってはおらず、定期昇給・特別昇給の制度のないのは、定員内職員と定員外職員とでは職務内容、雇用形態、賃金形態などが異なっているので、同列同質には論じえないからである。

また、定員外職員の賃金の決定については、昭和二二年一二月、労働大臣が公益事業に従事する直用労働者に適用する一般職種別賃金として基準額を定め、全国的に実施することになったので、国有林野事業においても、これらの基準額に即して運用し、以後昭和三二年林協第一六号(昭和三六年に全面的に改正され、昭和三六年林協第三五号となる。)が締結されるまで、林野庁の定めた規定及び組合との協約等により一定の基準を定めて行っていたものであり、給与関係の労働協約の実施等を主たる内容とする林野庁長官通達をもって給与準則としている。

そして、その賃金について、林野庁としては、財政民主主義の下に、国有林野事業特別会計法一一条に基づき、その事業予算として国会の審議を経た範囲内で、給特法三条に則り定めるもので、法律や予算による制約を受けており、単に給与総額制が定員外職員について明定されていないからといって、林野庁当局が無制限の当事者能力を有していて、自由に組合と団体交渉を行い労働協約を締結しうるものでないことは当然である。

(三) 労働時間及び休日、体暇等について

これらに関する差異は、採用条件、職務内容及び労働形態等を異にするところからくるものであるが、労働時間については、定員外職員の勤務態様が屋外労働であるという特殊性を考慮して、週休日のほかに作業休日を設け、その代り、一週間の勤務時間が四四時間を超えない限度で一日八時間を超える勤務時間を所属の長が定めることができるなどとしているので、定員内職員との間に実質的に差異はない。

また、常用作業員については私傷病休暇・休職の制度があり、定期作業員については休職制度はなかったが、健康保険法に加入していた者については、同保険により傷病手当金支給が定められていた。

(四) その他

定員外職員についても一定の勤務条件の下に国家公務員等退職手当法が適用されるものであり(同法二条二項、同法施行令一条二二項)、国家公務員共済組合法については、常用作業員について同様であり、定期作業員及び臨時作業員については同法の適用はないが、これは雇用形態の差異からくる法適用上やむをえないところであり、宿舎については、定期作業員については独自の事業宿舎制度を設けて運営されている。

2  また、本件争議行為が業務の停廃をもたらし、国民生活に影響を与えたことは後述のとおりである。

三  本件争議行為に公労法一七条一項を適用しても、違憲違法ではない。

被控訴人らは、争議行為につき右条項が適用されるのは、当該争議が国民生活に重大な影響を与えた場合等に限定されると主張するが、その然らざることは既に述べたとおりである。

四  本件懲戒処分の根拠法令及び労働基準法の適用の有無

本件争議行為は公労法一七条一項、国公法九六条一項、九八条一項、九九条、一〇一条一項に違反するものであり、従って、国公法八二条各号に該当するので、本件懲戒処分は、国公法八四条一項及び人事院規則一二―〇に基づいてなされたものである。

また、労基法九一条は、現業・非現業を問わず、すべて一般職の国家公務員には適用されない。

五  本件懲戒処分は相当であって、懲戒権の範囲を超え又はその濫用にわたるものではない。

1  一般に、公務員に対する懲戒処分は、行政組織内の秩序維持のため、職務義務違反を犯した者に対して課せられる法的責任であり、速やかにこれを課することによってその責任を明らかにし、その将来を戒めるものである。それゆえ、その組織体の秩序維持のために、また当該義務違反者の将来をも考慮して、懲戒処分を課するかどうか、これを課するとしても、どの処分を選択し、その中でどの程度のものを課するかは、その組織内の諸事情及び当該義務違反者に最も通暁した者、即ち懲戒権者だけが適切にこれをなしうるのである。懲戒権者は、行政組織の秩序維持のため、職務義務違反行為の軽重、懲戒処分が本人及び他の職員に及ぼす訓戒的効果等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、右のように懲戒権者の裁量に任すのでなければ、妥当な結果を得ることが出来ないものである。

従って、懲戒権者がその裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し或いはこれを濫用したと認められる特別の場合でない限り、その裁量権の合理的運用として、違法とはならないというべきである。

2  そこで、本件懲戒処分の選択に関して考慮されるべき諸事情について検討する。

(一) 本件争議行為に至るまでの経緯

国有林野事業に従事する定員外職員である作業員の臨時雇用制度を抜本的に改善するためには、制度上及び予算上において種々の制約があり、林野庁限りでは処理できない事柄であるため、林野庁としては、関係省庁と折衝を重ねて鋭意検討を進めてきたが、その傍ら、能う限りの常用化、雇用期間の延長によって、作業員の雇用の安定に努めるとともに、全林野の要求する個々の処遇改善問題についても、(イ)定員化(機械要員の定員内任用)、(ロ)祝日、生理休暇及び忌引の有給化、(ハ)雇用基準の改正、(ニ)諸手当の改善等を実現してきた。そして、林野庁は、昭和四五年二月全林野に対し、先に昭和四三年一一月九日非公式に説明した雇用制度の改正は、関係省庁の了解を得るに至らなかったので、その昭和四五年度実施は見送らざるをえない旨説明し、その後昭和四六年度実施を図るべく雇用区分改正案の概要を作成し、いわゆる七月提案として全林野に対し非公式に提示した。

このようにして、林野庁は、臨時雇用制度の抜本的改善に努力し、全林野の要望に応えてきたにも拘らず、全林野は、右提案は新たな差別を持ち込む不当なものであると称して、全営林局六七営林署の分会に対し本件争議行為等を指令し、右指令に基づき、被控訴人らにおいて、当局の再三にわたる警告等を無視して、敢えて本件争議行為に及んだことは、その情状において軽視することができず、酌量すべき余地はないものというべきである。

なお、本件争議行為の原因となった臨時雇用制度の抜本的改善については、基幹的な作業員を国公法上の常勤職員に位置付けるべく、積極的に関係省庁と折衝を進めた結果、昭和五二年一二月末に了解を得ることができ、同五三年一月一日以降、林野庁独自の制度としての基幹作業職員制度を発足させることとなって結着をみているが、このこと自体、林野庁が真剣な努力を重ねてきた証左といえるものである。

(二) 本件争議行為の目的及び性質

本件争議行為は林野庁の前記七月提案を撤回させることを目的とするようであるが、作業員の雇用制度の抜本的改正をめぐる問題の解決については、なお長期にわたる林野庁当局の継続的努力が必要であることは全林野も熟知していたのであるから、本件争議行為は何らの緊急性ないし必要性もなかったものである。

このように、本件争議行為は、作業員の雇用安定、処遇改善等に関し、現下の情勢のもとにおいては林野庁限りでは如何ともし難い諸要求を掲げてその実現を迫り、これが解決に尽くしてきた林野庁の誠意と努力を無視し若しくは過少評価して、労使交渉の経過に関係なく実行されたスケジュール闘争の一環であって、この点においても被控訴人らの情状は決して軽視することができないものである。

(三) 本件争議行為の態様

本件争議行為は、林野庁当局の再三の警告を無視して、第二一回定期全国大会以降の闘争スケジュールに添い、全営林局六七営林署において約四〇〇〇名が参加して行われた職場放棄の一環として実施されたものであり、被控訴人らは当局の再三の警告を無視して約四時間にわたり職場を放棄したものであって、その違法性は極めて強いものである。

現業の国家公務員の労務提供は憲法一五条により国民全体に対して負うものであり、その労務不提供は主権者たる国民の生活に重大な障害をもたらす危険性を常に有しているものであり、かかる観点からすると、現業の国家公務員の労務不提供は極めて重大な職務義務違反であって、本件争議行為を捉えて、短時間の単なる労務不提供であると安易に解することはできない。

(四) 本件争議行為の結果及び影響

本件争議行為によって、当日の争議参加者によって遂行されることを予定していた諸業務(別表二)は始業時刻から午前中の半日間にわたり完全に麻痺状態に陥って実施不能となり、その結果、当該営林署における国有林野事業の業務の遂行に停滞を来し、その業務の正常な運営を阻害されたものである(被控訴人らを含む争議参加者が平常どおり就労した場合の業務達成量を平常の作業状況から推定して算出すると、別表三のとおりである。)。

ところで、現業の国家公務員の業務の停廃は、それ自体すでに国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらす性質を当然に内包するものであり、本件争議行為による業務停滞をもって、国民生活に与えた影響が軽微ということはできない。しかして、もともと、現業の国家公務員の争議行為が一般国民に与える実害は、それぞれの業務の性質上、正確・詳細にこれを判定することが困難な場合が多いが、右具体的判定の必要をあまりに重視すれば、目に見えた実害がないというだけで処分を否定する結果となりやすく、国家公務員に関する前記の如き懲戒処分制度の趣旨を減殺し、争議行為を禁止する公労法一七条一項の精神を没却することとなる。

(五) 被控訴人らの処分歴

被控訴人らはいずれも、本件懲戒処分がなされる以前の昭和三八年四月から同四一年八月までの間において、公労法一七条一項の禁止する争議行為を行ったことにより処分を受けた前歴を有するものである。

3  以上に述べた諸事情によって明らかなとおり、被控訴人らが本件争議行為を敢えて行ったことについての情状には決して軽視できないものがあるうえ、本件懲戒処分は免職、停職よりも軽い減給処分であり、その程度も人事院規則一二―〇に定める最高限をはるかに下回るものであること、被控訴人らには同種の非違行為による処分歴があること等を考慮すると、本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものといえないことは明らかであり、右処分をもって裁量権の逸脱ないし濫用とする余地は全くないものである。

六  訴訟手続の受継について

一審原告番号42の熊谷久夫及び80の成美五郎がいずれも被控訴人ら主張の年月日に死亡し、被控訴人番号42の1ないし4及び80の1ないし5の各被控訴人が右両名の地位を承継したことは認める。

(新たな証拠)

当審記録中の証拠目録記載のとおり。

理由

一  被控訴人ら主張の請求原因1項の当事者関係の事実は当事者間に争いがなく(但し、上記事実欄に摘示のとおり、一審原告番号42の熊谷久夫及び80の成美五郎はいずれも死亡したが、被控訴人番号42の1ないし4及び80の1ないし5の各被控訴人が右両名の地位を承継したことは当事者間に争いがない。なお、以下、事実関係で「被控訴人ら」というときは、右承継人らを含まず、右死亡者両名を含んで用いるものとする。)、また、同3項の本件争議行為に関する主張のうち、被控訴人らがいずれも国有林野事業に従事する定員外職員(その中の常用作業員)であること、被控訴人らの加入する全林野は、昭和四五年一二月一一日全国六七分会所属の四二五五名の組合員に対し、半日拠点「職場放棄」を実行するよう指令し、同指令を受けた被控訴人らは、名古屋地本の指導のもとに、同日午前中の始業時から正午までおおよそ半日の職場放棄を実行したこと、並びに同2項の本件懲戒処分の事実、即ち、控訴人ら署長が、右職場放棄は公労法一七条一項に違反するものとして、昭和四六年一月三〇日付で国公法八二条により本件懲戒処分を行ったこと、以上の各事実も当事者間に争いがない。

二  そこで先ず、国有林野事業に従事する職員、特に定員外職員の地位・処遇の沿革、本件争議行為に至るまでの経緯及び本件争議行為の態様・影響等について検討する。

原判決の理(「理由説示欄」の意と認められる。)六頁七行目から一一頁二行目に掲記の各証拠に、(証拠略)並びに弁論の全趣旨に、当事者間に争いのない事実(原判決の理一頁七行目から二頁末行まで及び同三頁初行から六頁六行目までに掲記の各事実)を総合すると、次の各事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

1  国有林野事業は、昭和二二年にいわゆる林政統一が実現し、国有林野事業特別会計制度が創設されて新発足し、現在の作業員(定員外職員)に当たる者は、昭和二三年の改正国公法により一般職の国家公務員となったが、その処遇については法的規制が明確でなく、実態としても不統一であったので、林野庁は、昭和二五年に「営林局署労務者取扱規定」を、次いで同二六年に「営林局署労務者処遇規定」を制定し、作業員の労働条件全般について全国統一的基準を明らかにした。

その後、昭和二八年一月一日から国有林野事業の職員に公労法が適用されたが、林野庁は、同日労働組合との間に「労働条件の暫定的取扱に関する協定」を、また昭和二九年三月には「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び解雇の場合に関する覚書」をそれぞれ締結し、昭和三〇年三月労基法に基づき国有林野事業の定員内・外職員につきそれぞれ就業規則を制定して、公労法適用下における労働条件の統一的基準を設定した。また、作業員の賃金については、昭和二二年一二月労働大臣が公益事業に従事する直用労働者に適用する一般職種別賃金として基準額を定め、全国的に実施することになったので、国有林野事業においても、これらの基準額に即して運用し、林野庁の定めた規定及び組合との協約等による一定の基準に従い決定してきたが、昭和三二年一〇月全林野との間に「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」を締結し、昭和三六年九月にはこれを全面改正した協約(昭和三六年林協第三五号)を締結した。更に、定員外職員の雇用制度については、昭和四四年四月全林野との間に「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び試用期間に関する覚書」を締結し、右雇用区分として、常用作業員、定期作業員、臨時作業員の三種を定めて現在に至っている。

2  国有林野事業に従事する職員は、定員内職員(行政機関の職員の定員に関する法律によって任用された職員)と定員外職員(作業員)とに分かれ、定員内職員は常勤職員として、作業員は非常勤職員として、共に国公法の適用を受けているが、作業員は、定員内職員と異なり、人事院の実施する競争試験又は選考のいずれにもよらずに、任命権者が国公法附則一三条の授権に基づく人事院規則八―一四により任期を定めて任用し、その雇用期間は、常用および定期作業員は二か月毎に、臨時作業員は一か月毎に更新されている。

ところで、右のように定員外職員が置かれているのは、事業の中心が森林経営であることから、事業量の変動、季節的制約及び事業実行形態の変動等に対応する必要労働量の弾力的供給を基本としているためであり、特に本件付知、小坂各営林署管内にあっては、冬季期間の凍土、積雪などの関係で、年間を通じて事業を継続することが困難なことにあった。しかし、常用作業員については、雇用期間(二か月)の更新により事実上期間の定めのない雇用であり、また定期作業員については、雇用期間(二か月)の更新による六か月以上一年未満の有期の雇用であるが、昭和三七年一一月に「優先雇用に関する事案の処理についての確認事項」を定め、雇用期間満了によって退職しても、当該営林署の事業実行上の事情が同様であれば、当年度雇用した者を翌年度も優先的に雇用する原則についての確認がなされた。

3  国有林野事業に従事する職員には公労法が適用され、同法八条により賃金その他の給与のほか労働条件について団体交渉ができることとなったため、定員内職員の給与、作業員の賃金に関してはそれぞれ労働協約が締結されており、作業員についての協約(昭和三六年林協第三五号)によれば、作業員の基本賃金につき日給制がとられ、その支払形態としては定額日給制と出来高給制がとられている(定期昇給・特別昇給の制度はない。)。その他、旅費や雇用中断期間中の定期作業員に対する退職手当、失業保険金の各支給が行われており、休日、休暇等については、作業員就業規則、及び昭和四四年四月に林野庁と全林野との間で締結された「国有林野事業の作業員の週休日及び作業休日に関する覚書」によって実施されている。

4  しかし、作業員の雇用関係は不安定であり、その勤務条件も定員内職員に比較して劣っている点が多かったため、その雇用の安定と処遇改善の問題は、林野庁と全林野の懸案事項とされてきた。そして、全林野の要求する雇用の安定と処遇改善の問題は、作業員の勤務の実態は常勤職員と異ならないとして、定員内職員への組入れか、定員内職員と同内容の処遇を受ける常勤職員としての地位を法的に位置付けようとするものであった。

ところで、林野庁は、昭和四一年三月二五日に「国有林の経営の基本姿勢として、直営、直ようを原則として、これを積極的に拡大し、雇用の安定を図ることを前提として検討し、なお、通年化については努力する。」旨の方針を表明し、同年六月三〇日に「雇用の安定については、林業基本法一九条並びに三月二五日表明した方針の趣旨に基づき、従来の取扱いを是正して、基幹要員の臨時的雇用制度を抜本的に改めるという方向で雇用の安定を図る考えである。この基本的な姿勢に立って、さし当たりの措置としては、生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大、あるいは各種事業の組合せによる雇用期間の延長などによって雇用の安定を図る考えである。あわせて、福利厚生面の拡充或いは労働災害防止の措置などについても、積極的に推進したい考えである。なお、これらの具体化に当たっては、労働組合と十分に協議、話合いを行い意思の疎通を図りながら円滑に進めて行く考えである。」旨の方針を表明し、右二つの表明を全林野との間で確認したが、これがいわゆる二確認と呼ばれるものである。

5  林野庁は、右二確認後、基幹要員の臨時雇用制度を抜本的に改善するため、雇用制度問題検討会を設置して検討に入り、全林野も昭和四二年一〇月にいわゆる差別撤廃要求を林野庁に示したが、林野庁は、これに対し、同年一一月、臨時雇用制度の抜本的改善の検討には、それが国家公務員制度の根本に関わる問題であり、法令の改正、予算措置等を要する事項であることに鑑み、関係省庁との折衝・調整を必要とするため相当の日時を要する旨回答した。

次いで、林野庁は、昭和四三年一一月九日、全林野に対し、未だ事務段階の素案であることを断ったうえで、目下検討中の雇用制度改正の方向について非公式に説明し、全林野と交渉を重ね、同年一二月、全林野に対し、「六・三〇確認において林野庁が表明した、基幹要員の臨時雇用制度を抜本的に改める方向とは、〈1〉基幹要員については通年雇用に改める。〈2〉基幹要員については常勤性を付与する。〈3〉処遇関係についても常勤性にふさわしいように改善するなどの諸点である。」旨説明した。また、作業員を国公法の常勤職員とすることについては、昭和三六年の「定員外職員の常勤化防止について」及び「同年度の定員外職員の定員繰入れに伴う措置について」の閣議決定もあって困難であるところから、常勤職員に準ずる性格を与え、且つそれにふさわしい処遇を図ろうとするものであることの基本的姿勢を明らかにした。

林野庁は、右基本的姿勢に立って、昭和四五年度実施を図るべく、人事院、行政管理庁などの関係省庁と折衝を進めたが、その了解を得るに至らなかったので、昭和四五年二月、全林野に対し、常勤性付与の法制上の措置は、他省庁の雇用のあり方との関係があり、政府全体の任用方針との間にさらに調整を要することなどから、同年度実施は見送らざるをえない旨説明した。

6  右のような経過の中にあって、林野庁は、昭和四一年一〇月、「国有林の経営における事業及び雇用のあり方について」と題する長官通達を発し、その中で、「直営直ようを原則とし、能率性を前提としてこれを積極的に拡大し、雇用の安定を図る。基幹要員の臨時雇用制度の抜本的改善を検討するが、さし当たり、製品生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大あるいは各種事業の組合せによる雇用期間の長期化の実現などを検討することによって雇用の安定に努める。」との基本方針を表明し、当面の措置として、事業については、製品生産事業及び造林事業を主体に直営直ようの拡大を図り、冬山作業についても、とりあえず実験的にこれを行い、その結果に基づき可能なものについて漸進的に実施することとし、雇用については、定期作業員の雇用の長期化を行うことにした。

そして、林野庁は、冬山作業の実施の可能性の追求や各種事業の組合せなどによる事業の平準化によって、昭和四一年から同四五年までに累計九九一〇名を常用化し、また、名古屋営林局において、昭和四一年度から同四五年度までに累計三二〇名(そのうち、付知営林署五〇名、小坂営林署三九名)を常用化し、更に、雇用期間の延長については、その雇用延長平均日数につき、付知営林署において、昭和四三年度一〇・七日、同四四年度一七・七日、小坂営林署において、昭和四二年度二・八日、同四三年度八・四日、同四四年度八・五日、同四五年度三・三日と長期化した。また、全林野が前記差別撤廃要求の中で要求した機械要員については、昭和四一年度から同四三年度までに計二七二三名の常用作業員を定員化し、祝日特別給、生理休暇、忌引についても手当てをし、昭和四四年四月には、その覚書において、常用、定期作業員となるための資格要件である前年度の勤務実績を廃止し、新たに二署間常用の制度を設定するなどし、その他、寒冷地特別給を認めるなどして、作業員の処遇改善に努めた。

7  処遇改善については右のような成果を見たが、臨時雇用制度の抜本的改善については容易に満足できる結果が得られずにいたところ、林野庁は、他省庁に所属する定員外職員の位置付けの問題が生ずるなど困難な情勢の中で、常勤性付与につき昭和四六年度実施を図るべく、雇用区分改正案の概要を作成し、関係省庁の了解が得られることを前提として、昭和四五年七月、全林野に対し、「現行の常用、定期、臨時という区分を、基幹作業員(通年及び有期)と臨時作業員とに改め、基幹作業員の資格要件を定め、同作業員を経験年数、技能、年令その他一定の選考基準により、現行の常用、定期作業員の中から任用し、基幹作業員の処遇については、国公法上の常勤職員として取扱い、基幹作業員になれなかった者に対しても従前の処遇を保障する。」とするいわゆる七月提案を行った。

右提案に対し、全林野は、六・三〇確認の基幹要員とは、現行の常用作業員及び定期作業員の全員を指すもので、これを選考し、年令その他の制限をすることは、新たな差別を持ち込み、労働条件をさらに切り下げるものであり、林野庁には誠意ある態度が見られないとして反発した。

8  そして、全林野は、当事者間に争いのない原審における控訴人らの主張4の(二)の(1)ないし(3)(原判決の事七三頁五行目から七五頁三行目まで)の各過程を経て、スト突入指令を出し、その旨の「ストライキ宣言」を発表し、右指令に基づき、名古屋地本の直接指導の下に、付知、小坂、岡崎(訴外)各分会において、別表一のとおり計二七二名が本件争議行為に入ったものである。

付知分会においては、昭和四五年一二月八日、「一二月一一日と同月一八日の二回にわたり半日のストライキを実施する。」旨の宣言文を掲示したので、当局は、同月九日同分会に対し、右一一日の半日ストを中止するよう文書による警告を行い、且つ、林野庁長官の発した「職員の皆さんへ」と題する文書を掲示して、職員がストライキに参加しないようその自重を求めたが、同分会に所属する被控訴人らは、同年一二月一一日、岐阜県恵那郡付知町の水無神社社務所において、向畑名古屋地本書記長の直接指導の下に、集会に参加し、始業時である午前七時三〇分又は同八時を経過しても就労しなかったので、当局は、右集会現場に臨み、右被控訴人らに対し、再三にわたり勤務につくよう命令したが、右被控訴人らは、同集会を解散時である午前一〇時五分頃まで継続し、解散して右被控訴人らの作業現場へ復帰するまで、別表二の一の各始業時刻から各四時間にわたり職務を放棄した。

小坂分会においては、前記付知分会におけると同様の宣言文を掲示し、当局もまた同様の警告、文書掲示をしてその自重を求めたが、同分会に所属する被控訴人らは、同年一二月一一日、岐阜県益田郡小坂町大字落合の落合倶楽部において、駒田名古屋地本委員長の直接指導の下に、集会に参加し、始業時である午前七時四五分又は同八時を経過しても就労しなかったので、当局は、右集会現場に臨み、右被控訴人らに対し、再三にわたり勤務につくよう命令したが、右被控訴人らは、同集会を解散時である午前一〇時五分頃まで継続し、解散して右被控訴人らの作業現場へ復帰するまで、別表二の二の各始業時刻から、営林本署勤務である被控訴人番号64、65、108及び小坂貯木場勤務である被控訴人番号63、69、85ないし87、98、109ないし111、114の被控訴人らは正午までの四時間、その余の被控訴人らは午前一一時三〇分までの三時間四五分にわたり職場を放棄した。

右各職場放棄によって、付知及び小坂各営林署において、被控訴人らによって遂行されることが予定されていた別表二の「当日の作業予定」の業務に停滞が生じ、これを平常の作業状況から推定して量的に算出すると別表三のとおりとなる。

9  以上の経過をふまえ、右の争議行為につき、昭和四六年一月三〇日、控訴人ら署長は、右行為を公労法一七条一項違反として、各被控訴人に対し、いずれも一か月間十分の一の減給に付する本件懲戒処分を行った。

10  なお、本件争議行為の発端となった臨時雇用制度の抜本的改善については、基幹的な作業員を国公法上の常勤職員に位置付けるべく、林野庁と関係省庁との間に折衝が重ねられた結果、昭和五二年一二月末に行政機関職員定員令の適用されない常勤職員として取扱うことで了解が成立し、昭和五三年一月一日以降林野庁独自の基幹作業員職員制度が発足した。

三  以上の事実関係につき、被控訴人らは、先ず、公労法一七条一項は憲法二八条に違反する無効のものであるから、右公労法違反を理由とする本件懲戒処分もまた憲法二八条に違反すると主張するので判断する。

1  被控訴人らは、林野庁所轄の付知営林署及び小坂営林署管内の国有林野事業に従事している一般職に属する国家公務員(以下「現業国家公務員」という。)であり、公労法二条二項にいう職員として、同法一七条一項(争議行為禁止)の適用を受けるものであるところ、同条項は職員及び組合の一切の争議行為を禁止しているが、右規定が憲法二八条に違反しないことは最高裁判所昭和五二年五月四日大法廷判決(五・四判決)が説示するとおりである。

これを、被控訴人ら現業国家公務員に即して述べると、(イ)現業国家公務員は、財政民主主義に表われている議会制民主主義の原則により、その勤務条件の決定に関し国会の直接又は間接の判断を待たざるをえない特殊な地位に置かれていること、(ロ)そのため、被控訴人らは、労使による勤務条件の共同決定を内容とするような団体交渉権、ひいては争議権を憲法上当然には主張することのできない立場にあること、(ハ)現業国家公務員は、その争議行為により適正な勤務条件を決定しうるような社会・経済上の関係にはなく、且つ、その職務は公共性を有すること、(ニ)加えて、争議行為禁止の代償措置も用意されているので、全勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地から争議行為を禁止しても、憲法二八条に違反するものとはいえないものである。

2  なるほど、憲法二八条は、同法二五条の生存権の保障を基本理念とし、そのための手段として勤労者に対し労働基本権を保障するものであり、被控訴人ら現業国家公務員も同法二八条の勤労者に該当することは、被控訴人らの主張するとおりである。しかしながら、憲法二八条といえども、憲法の他の規定に対して絶対的な優位性を有する規定とは解されず、その位置付けは、憲法一五条、四一条、七三条四号、八三条等の各規定をも考慮し、憲法の定める政治及び行政の基本形態、国家における公務員の社会的、経済的地位及び役割、国民及び公務員の人権保障の態様等を総合勘案して、憲法秩序全体の枠組の中で定めなければならないものである。

右のような観点から検討すると、上記説示の趣旨に対する被控訴人らの反論は、いずれも採用し難いといわなければならない。即ち、先ず、勤務条件法定主義・財政民主主義については、憲法七三条四号の「官吏」とは広く国の公務に従事する公務員を指すと解されるので、被控訴人ら現業国家公務員も右官吏に該当する。そして、国公法は、同号にいう官吏に関する事務を掌理する基準を定めるものであるところ、公労法八条は、現業国家公務員の賃金その他の労働条件を団体交渉の対象とし、これに関して労働協約を締結することが出来るとしているので、被控訴人らには、右と抵触する国公法の規定は適用されない(公労法四〇条一項一、二号)が、それ以外の一般職の国家公務員たる身分と不可分の分限、懲戒及び服務に関する国公法の規定の大半は適用を除外されていない。のみならず、右団体交渉の対象とされている給与、労働時間、休憩、休日及び休暇についても給特法三条及び六条にその指針とすべき規定が置かれており、また公労法一六条は、予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とするいかなる協定も政府を拘束せず、国会の承認によって初めて資金の支出が許されるものと定めているので、団体交渉・協約といえどもこれら法律による制約を免れないものであるから、現業国家公務員の勤務条件の決定は、国会の直接又は間接の判断を俟たざるをえないものである。しかして、国家公務員の勤務条件のうち、いかなる範囲の事柄を法律事項とし、他を労使間の協定に委ねるかは、憲法上、国会の権限に属するところと解すべきであるから、被控訴人らが、勤務条件を共同決定しうると主張するところも、結局は、以上に判示した制約の域を出ないものというべきである(なお、被控訴人らの賃金決定が財政民主主義の制約に服すると見るべきことについては後述する。)。

次に、勤務条件の決定に対する市場からの抑制力に関する点については、被訴人らの主張する世論が適切に喚起され、速やかに抑制力を発揮しうる保障はない。また、職務の公共性に関する点については、職務の公共性、即ちその業務の停廃によって国民全体の共同利益が害されることを争議行為禁止の一つの理由とすることは十分首肯しうるし、かかる公共性を有する事業のいずれを公労法の適用下に置くかは、国民全体の共同利益の確保という観点に立った立法政策の問題であるから、他に同様の公共性を有する私企業があることをもって論難するのは当たらない(なお、国有林野事業の争議行為による業務の停廃が国民全体の共同利益を害することについては後述する。)。更に、代償措置に関する点についても、賃金問題は国家財政による制約を免れず、賃金関係以外の問題については、例えば被控訴人らの処遇改善問題についても、後にも述べるとおり、林野庁のみでは処理しえない制度上の問題が含まれているのであるから、公労法に定める仲裁等の制度が、右問題につき被控訴人らの期待に十分添いえなかったからといって、代償措置が機能を果たしていないとは未だいい難い。

以上のとおりであるから、「争議権の制約は、これが行使による業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがある場合に限り、これを避けるため、必要最少限度の範囲で許されるにすぎない。」旨の被控訴人らの主張は、にわかには肯認できない。

3  なお、ILO条約一五一号については、我が国はこれを批准していないので、右は未だ条約としての効力を生じていないものであり、また、同条約は、その適用を受ける公的被用者の争議権に関するものではない。そして、被控訴人ら現業国家公務員は、公労法四条、八条、二六条等において、労働組合を結成し又は加入し、公共企業体等の管理及び運営に関する事項を除いて、その労働条件について使用者と団体交渉をし、労働協約を締結する権利を与えられており、雇用ないし勤務条件の決定に関連して生ずる紛争については、公労法に仲裁等の制度が設けられているので、同法一七条一項は右条約に抵触するものではない。

また、ILO条約九八号(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約)六条の「公務員」の意義については争いがあるけれども、同条約は、国、地方公共団体及び私企業等を問わず、すべての労働者の争議権に関するものではなく、更に、ILO条約八七号(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)も同様に、右すべての労働者の争議権に関するものではない。そして、被控訴人ら現業国家公務員には団結権及び一定範囲ではあるが団体交渉権が与えられているので、公労法一七条一項が右両条約に抵触するものでないことは、前説示と同様である。

4  以上のとおりであるから、被控訴人らの前記主張は採用することができない。

四  被控訴人らは、国有林野事業の職員の争議行為に公労法一七条一項を適用することは憲法二八条に違反すると主張するので判断する。

1  先ず、国有林野事業に従事する職員、特に定員外職員の法律上の地位及び処遇について検討する。

(一)  国有林野事業に従事する職員は、定員内・外を問わず一般職に属する国家公務員として国公法の適用を受け、公労法八条の関係で一部規定が適用除外されているが、一般職の国家公務員たる身分と不可分の分限、懲戒及び服務に関する国公法の規定の大半は適用を除外されていないことは、前述のとおりである。そして、国公法附則一三条の授権に基づく人事院規則八―一四による任期を定めての任用は、前述の如く、国有林野事業の中心が森林経営であり、季節的制約等により年間を通じて均等な事業量を確保することが困難なことによるものであるから、これをもって同条の脱法的運用とか同法違背であるとか解すべきではない。また、定員外職員の解雇条項である作業員就業規則一三条一項四号及び二項は、作業員の地位の特殊性に応じて、国公法七八条四号に準じた取扱いとなっていると解されるところである。

(二)  次に、(証拠略)によれば、定員外職員については、給与関係の労働協約の実施等を主たる内容とする林野庁長官通達をもって、給特法四条にいう給与準則として扱っていると解されるのであるが、定員外職員は、賃金その他の勤務条件において、定員内職員と比較して劣っている点のあることは前認定のとおりである。しかし、その賃金制度は、国有林野事業における現場作業の実態に適応したものと認められるし、その他の処遇上の差異は、採用条件、職務内容及び労働形態等を異にすることに由来するものというべきである。

ところで、定員外職員については、給特法五条の給与総額についての規定の適用はないが、(証拠略)によれば、その賃金は、国有林野事業特別会計法による歳出予算の国有林野事業費(項)の業務費(目)中の事業費に主に積算されて、そこから支出されるので、同法一一条一項に基づく予算を作成する際、定員外職員の賃金は国有林野事業費(項)として予算に組み入れられ、国会の審議の対象となりうるものであるから、右賃金その他の勤務条件の決定は議会制民主主義の制約に服し、国会の直接又は間接の判断を俟たざるをえないものである。

2  次に、国有林野事業の業務の性質及び内容について検討する。

(一)  (証拠略)によれば、次の各事実が認められる。

国有林野事業は国有林野の管理運営の事業及びその附帯事務を行うものであるが、昭和四四年四月一日現在における林野庁所轄の国有林(官行造林地を含む。)の面積は、約七八四万六〇〇〇ヘクタールで、全森林面積の三一パーセント、国土総面積の二一パーセントを占め、その森林蓄積量は約八億七一〇〇立方メートルで、我が国の森林資源の四六パーセントを占めており、その大部分は国土保全及び水源かん養の上で重要なせきりょう山脈地帯に分布している。

そして、国有林野事業の経営は、国土の保全、水源のかん養、国民の保健及び休養、或いは動植物その他の自然保護など森林の有する公益的機能を確保しながら、森林資源の培養及び森林生産力の向上に努めることにより、国民経済にとって重要な林産物を持続的に供給し、林産物の需給及び価格の安定に資することを目的とするとともに、非常災害時における応急復旧用材の供給をなすことを責務とするものであり、これを達成するため、森林法四条一項により農林大臣(当時。以下同じ。)がたてる全国森林計画に即して一五箇年を一期として五年毎に林野庁長官がたてる経営基本計画、これに基づき一〇箇年を一期として五年毎に各営林局長がたてる地域施業計画、更にこれらに基づき林野庁・各営林局・各営林署単位にそれぞれ五年間についてその長がたてる各業務計画及び年・月毎の事業予定簿に従って、合理的、計画的に実施されるものであるから、その事業運営の如何が国民生活に重大な影響を及ぼすことは明らかである。

(二)  もっとも、造・育林については植付けから伐採までの再生産期間が長いことは経験則上明らかであり、(証拠略)によれば、造林・種苗事業の適期も農業に比べてゆるやかで、林業技術の発展に伴い、更に緩和される傾向にあり、材木の成育には他の様々な因子が絡むので、適期の遅れが伐期の成長量に生ずる差異を具体的に測定しうるものではないことが認められる。また、国土の保全、水源のかん養など森林の公益的機能は人為を加えないことによって保持される面のあることも肯認できる。更に、(証拠略)によれば、昭和五四年度の我が国における用材総供給量約一億〇二六七万九〇〇〇立方メートルのうち五五パーセントは外材によって占められ、国有林からの供給量は一四・四パーセントであること、同年度の国有林野事業における木材の生産供給のうち立木による供給は約六〇パーセントであり、残余の素材(製品)による供給約四〇パーセントのうちの約二〇パーセントは民間業者に請け負わせているので、結局、国有林からの供給量のうち約六八パーセントは民間業者の手によって生産されていること、従って国有林野事業に従事する作業員の手によって生産される用材供給量の比率は約四・六パーセント(0.144×0.32)となること、造林事業における新植、保育、施肥などの各種作業もその五、六〇パーセントが民間業者に請け負わされていること、林道事業における工事施行等についてもその殆どは民間業者の請負によって行われていることがそれぞれ認められる。

(三)  しかしながら、(証拠略)によれば、材木の苗の蒔付の時期は暖地では三月中旬から四月、寒地では四月中旬から五月、苗木の植付けは各地によって若干異なるが、中部地方では四月から五月中旬、下刈は六月から八月がそれぞれ適期であり、右作業についても季節的制約のあることが認められる。(証拠略)によれば、農林大臣の中央森林審議会への諮問に対する昭和四〇年三月三一日付答申において、国有林野は、比較的奥地に存在することもあって老令低質の天然林が多くを占めており、民有林に比べても人工林化の遅れが目立っているので、その体質改善を推進し、成長量の少ない天然林をできるだけ早く人工林に転換することによって森林の生産力を高め、現在及び将来にわたって持続的、安定的に木材生産を行うべきである旨うたわれていることに照らしても、材木の再生産期間が長いことを理由に、適期に遅れてもさほど問題ではないとすることはにわかに容認し難く、業務計画の下に適期に従った速やかな作業こそゆるがせにすることは出来ないというべきである。

また、森林の公益的機能が必ずしも人為を加えないことによって保持されるのは、そのある一側面にすぎないし、国有林からの用材供給量の比率が少ないからといって、一定量の木材を持続的、安定的に供給することによって需給安定に寄与している事実は否定しえない。更に、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、民間業者による各種作業の請負も、計画、監督、検査等の基幹業務は林野庁所属の関係職員が担当しているものであること、また、国有林野事業において直ようの作業の果たす役割は決して少なくはないことが認められる。

3  以上に認定したところによれば、勤務条件法定主義や財政民主主義の原理は、国有林野事業に従事する被控訴人らの定員外職員にも妥当するものであるし、また、国有林野事業の業務の性質及び内容に照らすと、その規模、態様の如何に拘らず、被控訴人らの定員外職員による争議行為が多かれ少なかれ業務の停廃をもたらし、その停廃が国民全体の共同利益を害し、ひいては国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるものといわなければならない。従って、被控訴人らの前記主張も採用することができない。

五  被控訴人らは、本件争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当しないから、これに同条項を適用することは憲法二八条に違反し若しくは公労法一七条一項の解釈適用を誤ったものであると主張するので判断する。

1  ところで、本件争議行為は公労法一七条一項にいう「同盟罷業」に該当するものであるが、同条項は被控訴人ら現業国家公務員の争議行為を一切禁止するものと解されるから、その目的、態様、影響等によって同条項の争議行為に該当しないと認定することは許されないので、被控訴人らの右主張はその前提においてすでに是認できないものである。

2  のみならず、なるほど、上来認定の事実関係によれば、被控訴人らは、実態は常勤職員と殆ど変わりはないのに、定員内職員と比較して、その法律上の地位に不安定な面があるとともに勤務条件においても劣っていたのに、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、公労法の定める仲裁等の制度は、右問題の解決につき被控訴人らの期待するような機能を十分には発揮しえなかったことは認められる。しかしながら、上述のとおり、被控訴人らの要求する処遇改善等の問題は、林野庁のみでは処理しえない予算上、制度上の問題があったので、林野庁としては、関係省庁との調整を計りつつ、その実現に向って努力を重ねる傍ら、当面の措置として部分的な処遇改善を果たして来たものであり、当時の情勢としては、これ以上に被控訴人らの要求を早期に実現することはかなり困難であったと見られるので、被控訴人らの要求には所詮無理があったといわざるをえないのである。それにも拘らず、被控訴人らはあくまで右要求の早期実現を目指して本件争議行為に及んだものであるから、本件争議行為がその目的において何ら違法視されるべき余地がないとは到底いえない。

3  また、本件争議行為が当日の午前中の労務不提供にとどまることや、(人証略)によって窺える当日の作業は午後以降に実施しても事業の遂行上著しい支障がないものであったとのことは、本件争議行為の違法性そのものを左右するものではない。しかも、前認定の如く、本件争議行為により当日の午前中の業務が停滞したことは明らかであり、それがその後の労働密度の集約などにより修復されたとしても、これが事業全体としての作業効率を低下させたことは争いえない。従って、昭和四五年度の業務計画が全体として達成されたことや、業務計画等が争議行為以外の諸事情により中止、変更されることがあるなど被控訴人らが主張する諸事情も、本件争議行為の公労法一七条一項違反性に消長を来たすものではない。

4  以上のとおりであるから、被控訴人らの前記主張も採用することができない。

六  被控訴人らは、本件争議行為については公労法により処理されなければならないのに、国公法八二条を適用した違法があり、また、本件懲戒処分は国公法の根拠を欠くものであり、且つ労基法九一条前段に違反する旨主張するので判断する。

1  現業国家公務員について国公法九八条二、三項の適用が除外されているのは、これと同趣旨の公労法一七条一項、一八条が適用されるからであると解される。そして、公労法一七条一項の禁止を犯して争議行為を行ったことが、国公法八二条各号所定の場合に該当するときは、同条の規定による懲戒処分の対象とされることを免れないと解すべきである(最高裁判所昭和五三年七月一八日判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。

2  被控訴人らは、前認定のとおり、林野庁長官の争議行為に参加しないよう要望した事前の警告にも拘らず、昭和四五年一二月一一日の午前中の始業時から三時間四五分ないし四時間にわたって、職場を離れて所定の職務に従事せず、その間上司である控訴人ら署長の解散要求及び職場復帰を命じた業務命令にも従わなかったものであるから、被控訴人らの右行為は国公法九六条一項、九八条一項、九九条及び一〇一条一項に違反し、且つ、職場秩序及び服務規律を乱すものとして、同法八二条各号に該当するというのほかない。

3  一般職に属する国家公務員については、国公法が適用される(同法二条四項)ので、労基法等は適用されないことになり、国公法附則一六条及び同法第一次改正法律附則三条はこの旨の規定を置いているが、公労法四〇条一項は、一般職に属する現業国家公務員については右各附則を適用しないと規定し、これは現業国家公務員の職務と責任の特殊性に基づいて国公法附則一三条に定める同法の特例を定めたものであるとされている(公労法四〇条二項)ので、現業国家公務員については、労基法が全面的に適用されることになるかのように見える。

しかしながら、公労法四〇条一項は、右各附則の適用除外と並べて、現業国家公務員に適用を除外すべき国公法の規定を、しかも制限的に列挙する形式をとっていることからすると、右に適用を除外されていない国公法の規定については、本則どおり一般職に属する国家公務員たる現業職員にも適用されると解すべきである。そうすると、国公法の懲戒に関する七四条、八二条、八四条一項等の規定は被控訴人ら現業国家公務員に適用を除外されていないから、被控訴人らの懲戒は、国公法七四条二項の授権に基づく人事院規則一二―〇によるべく、この限りにおいて、労基法九一条前段は本件に適用されないものというべきである。

4  以上のとおりであるから、被控訴人らの前記主張も採用することができない。

七  被控訴人らは、本件懲戒処分は、全林野の組織破壊と、付知・小坂両分会の弱体化及び分会組令活動の制限とを意図してなされたものであるから、不当労働行為であると主張するので判断する。

本件争議行為に至る経緯は前認定のとおりであり、被控訴人らの要求する処遇改善と常勤制確立の問題は、林野庁のみでは処理しえない予算上、制度上の問題があったので、林野庁としては、関係省庁との調整を計りつつ、その実現に向かって努力を重ねてきたものであって、被控訴人らの主張するように、林野庁当局が、二確認を無視し、処遇改善と常勤制確立につき不誠意な態度をとってきたとはなし難く、また、全林野の弱体化等を狙って、一般参加者である被控訴人らを懲戒処分に付したと認めるに足る証拠はない。

そうすれば、本件懲戒処分は不当労働行為意思に基づいてなされたものとは認められないので、被控訴人らの右主張も採用することができない。

八  被控訴人らは、本件争議行為の責任は組合自身が負うべきものであるから、被控訴人らの個人責任を追求した本件懲戒処分は国公法八二条の適用を誤った違法があると主張する。

しかしながら、労働者の争議行為は集団的行動であるが、参加者個人の行為たる面もあり、その集団性の故に、参加者個人の行為としての面が当然に失われるものではなく、両者は併存するものというべきであるから、公労法一七条一項違反の争議行為に参加して服務上の規律に違反した者は、国公法八二条の規定による懲戒責任を免れないと解すべきである。

従って、右主張も採用することができない。

九  被控訴人らは、争議行為は使用者の命令に服さないところに意味があるから、争議行為中も労務指揮権に服することを前提として被控訴人らに対し服務上の規律違反の責任を問うことは、労働者の争議権を否定するものであり、本件懲戒処分は懲戒権の行使を誤った違法があると主張する。

しかしながら、争議行為中においても、個々の労働者と使用者との間の労働契約は継続して存在し、ただ、争議行為が正当なものである限り、服務上の規律違反の責任を問わないこととされているだけである。しかるに、現業国家公務員は公労法一七条一項により争議行為を一切禁止されているので、争議行為中であるからといって、服務上の規律違反の責任を免れるものではないから、これが懲戒事由に該当するものとしてその責任を問うことは何ら違法ではない。

よって、右主張も採用することができない。

一〇  被控訴人らは、本件懲戒処分は裁量の範囲を逸脱し若しくは懲戒権の濫用にわたる無効のものであると主張する。

1  国家公務員に懲戒事由がある場合において、懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を逸脱ないし濫用したと認められるものでない限り、違法とならないものと解すべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

2  そこで、前認定の本件争議行為に至るまでの経緯をみるに、定員外職員の臨時雇用制度の抜本的改善は、制度面において、事が国家公務員制度の根本に係る性質の問題であり、法令の改正、予算措置等を必要とする事項として、政府が立法府の意向とは無関係に独自に抜本的解決をなしえないものであり、また事業面において、国有林野事業が置かれた自然的、季節的制約等の条件の下に、継続した事業量を確保しながらも、事業経営における収支の経済性を図る必要もまた無視しえないものである。このような状況の下にあって、前認定の如く、林野庁は定員外職員の処遇改善及び雇用安定のための諸施策を実施して二確認の趣旨をできうる限り生かすためかなりの努力を重ねてきたことが認められるのであって、林野庁当局が、被控訴人らの主張するように、二確認を無視し、処遇改善と雇用安定につき不誠意な態度をとってきたとはなし難いところである。

右のように、定員外職員の処遇改善及び雇用安定については部分的にしろ成果をあげてきたわけであり、本件争議行為当時としては、それ以上に全林野の要求するような抜本的改善を早急に実現することはかなり困難な事情にあったと見られるのであるから、全林野の右要求には所詮無理があったといわざるをえないのである。しかるに、本件争議行為は、林野庁当局の七月提案を不満とし、全林野にとってさらに満足できる回答が得られないときの闘争手段の一環として、当局より事前の警告と再三にわたる職場復帰命令を受けながらこれを無視し、全国的規模にわたり全営林局六七営林署において約四〇〇〇名が参加して実施された職場放棄の一部であり、これによって前判示の如き業務の停滞をきたしたことが認められることに照らすと、本件争議行為は、その情状において斟酌しうる余地はむしろ少ないといわなければならない。

3  被控訴人らは、本件争議行為による国民生活への影響は皆無であると主張するが、公労法一七条一項の争議行為禁止の上記趣旨を勘考すれば、職務の公共性が争議行為禁止の一理由とされるのは、争議行為による業務の停滞によって国民全体の共同利益が害されるところに重点があるというべきであるから、当該争議行為が現実に国民生活に与えた影響の有無、程度等のいかんは、事情により懲戒処分の当否を判断するための一資料となるにとどまるものと解するを相当とすべきである。そして、本件の場合、前述のような事情に照らすと、よし、本件争議行為が国民生活に直ちには目に見えた影響を与えなかったとしても、そのことは本件懲戒処分の当否の判定を左右するほどまでの事情にはなりえないものというべきである。

4  また、被控訴人らは、本件懲戒処分以前において、国有林野事業の場合を含め官公労働者の半日程度の争議行為につき、その一般参加者に対して減給処分が発動されたことはなく、また、本件懲戒処分時以後の争議についても、一般参加者は概ね処分の対象外とされているので、本件懲戒処分は裁量権の範囲を逸脱したものであると主張するが、懲戒処分は、懲戒権者が、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、態様、結果等のほか、当該公務員の処分歴、選択する処分の他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮し、自由な裁量をもって、懲戒処分をすべきか否か、また、懲戒に付す場合にはいかなる処分を選択すべきかを決定する弾力的なものであるから、たとえ同じ程度・態様の非違行為に対する処分に不相違があっても、それが異なった時期になされたときは猶更、右不相違の一事をもって直ちに当該処分を不公平なものと結論づけることはできず、その当否は諸般の事情を総合してこれを決すべきである。

しかるところ、上述の如く、そもそも本件争議行為は、その動機、性質、態様、結果等の情状において斟酌しうる余地の少ないものであるから、本件懲戒権者が、懲戒に付すこととし、且つその種類として減給処分を選択したこと自体あながち不当とまではいい難いのみならず、本件減給の程度は規定の最高額よりもかなり下回ったものであること、弁論の全趣旨及びこれによって成立の認められる(証拠略)によれば、林野庁としては、当時、国有林野事業の争議行為に対し、次第に処分内容を厳しくして対処していたものであり、本件争議行為直後の七一年春闘に対する処分においても、一般参加者に対し本件と同内容の減給処分がなされていることが認められること、もっとも、その後昭和四九年以降の一般参加者に対する処分はゆるやかになり、懲戒処分がなされても減給処分はなかったことが窺われるが、国家公務員の争議行為に対する懲戒処分は、処分当時における争議行為に対する政治的対応の仕方等の背景事情によって処分内容がある程度左右されるのを避けえないものであるから、右のような結果が生じていても、重い先の処分を直ちに不当なものとはいい難いこと、被控訴人らには本件と同種の非違行為により受けた処分歴があること(当事者間に争いがない。)、以上の諸事情を総合勘案すると、本件懲戒処分が、先後の事例と比較して、社会観念上著しく妥当を欠く不公平なものとまでは認め難いといわなければならない。

5  以上によれば、本件懲戒処分は社会観念上著しく妥当を欠いたものとまではいえず、従って、控訴人らがその裁量権の範囲を逸脱し或いはこれを濫用したものとは認められないから、被控訴人らの前記主張も採用することができない。

一一  以上の次第で、被控訴人らに対してなされた本件各懲戒処分には違法事由は存しないから、その取消を求める被控訴人らの請求はいずれも理由がない。

よって、被控訴人らの請求を認容した原判決は不当であるからこれを取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 寺本栄一 裁判官三関幸男は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小谷卓男)

当事者目録

(控訴人ら)

控訴人 付知営林署長小谷清次

同 小坂営林署長村澤勝

右控訴人ら指定代理人 中村勲

(ほか一五名)

(被控訴人ら)

被控訴人 鎌田俊寛

(ほか一一六名)

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 原山剛三

同 水野幹男

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